「レオノーレ」として形になったが…
ただ、「フィデリオ」は難産であった。ナポレオンの黄金時代のさなか、「フィデリオ」は「レオノーレ」というタイトルでいったんは形になる。が、評判を得られず、ベートーヴェン本人も納得していなかったようだ。
「レオノーレ」が「フィデリオ」という名でようやく形になるのは、1814年5月のことである。当時、もはやナポレオンは昔日のナポレオンではなかった。前年1813年に「諸国民の戦い」といわれるライプチヒの戦いに敗れ、1814年4月には皇帝から退位、エルバ島に流されていた。
翌1815年、ナポレオンはエルバ島を脱出して再起を期すが、ワーテルローの戦いでイギリス・プロイセン連合軍に屈する。ナポレオンの時代はこうして終わったが、ベートーヴェンには「フィデリオ」が残された。
※本稿は、『教養が深まるオペラの世界』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
『教養が深まるオペラの世界』(著:内藤博文/青春出版社)
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