2025年10月、ウィーン国立歌劇場が9年ぶりに来日公演を開催するなど、日本でも人気が高まっているオペラ。ヨーロッパ最高の娯楽・教養であるオペラとは、どのようなものなのでしょうか?今回は、歴史ライター・内藤博文さんの著書『教養が深まるオペラの世界』から一部を抜粋し、奥深い名作オペラをわかりやすく解説します。
「地獄のオルフェ」とナポレオン3世の帝政
──「花の都」パリを飾ったドイツ人音楽家と不名誉な「怪帝」の時代
「地獄のオルフェ」(ジャック・オッフェンバック)
初演1858年 パリ ブッフ・パリジャン座
全二幕 およそ2時間15分(セリフによってはもっと長い)
享楽時代のフランスに登場した刹那的歓楽オペラ
オッフェンバックのオペレッタ「地獄のオルフェ」は、日本では「天国と地獄」のタイトルのほうで知られる。劇中のフレンチカンカンの音楽は、日本では小学校の運動会の定番でもあれば、パリを訪れた観光客を「これぞ花の都」と浮き立たたせもする。
「地獄のオルフェ」は、フレンチカンカンのイメージどおりの軽量級のオペラだ。ワーグナーのオペラのように人を耽溺もさせないし、ヴェルディのオペラのように人に心理劇としての納得も与えない。代わりにあるのは、刹那的な歓楽と高揚、そして諧謔(かいぎゃく)、笑いだろう。その意味で、世間でいう芸術とは遠いところにあるが、これもまたオペラである。
ストーリーは、ヴァイオリン教師のオルフェが、倦怠期にあった妻のユリディウスを誤って死なせてしまい、「世間」にとがめられて、しぶしぶ妻を取り返しに天国に行き、さらに地獄にも行くという荒唐無稽なドタバタ劇だ。