時代の産物

「地獄のオルフェ」は、時代の産物のようなオペラでもある。「地獄のオルフェ」が世に出た1858年は、フランスではナポレオン3世による帝政の全盛期と重なる。

ナポレオン3世の帝政を生んだのは、1848年のパリ二月革命だったともいえる。パリ二月革命では国王ルイ・フィリップは亡命、フランスでは第二共和政がはじまる。ただ、革命後の共和政はたいていがゴタゴタ続きでうまくいかない。そこに登場したのが、無敵の皇帝ナポレオン1世の甥であるルイ・ナポレオンだ。ちょうどフランス革命後のカオスの中にナポレオン1世が登場したように、甥のルイもこれをなぞった。

(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)

ルイ・ナポレオンは長くフランス国外で亡命生活を送っていたが、自らを伯父の再来のように思うところがあった。彼は革命を起こし、革命政権を継承するのが自分の使命のように考えていた。彼は、イタリアに渡り一揆に加わったこともあれば、フランス国内のストラスブールやブローニュでも一揆を企ててきた。その経験からすれば、政治的に行き詰まっているフランスの第二共和政は自らの力を試す絶好の場であった。共和政がガタつくほどに、偉大な伯父の血筋を持つ自らの人気が上がることも知っていた。

1848年12月、ルイ・ナポレオンはフランスの大統領選に勝利し、大統領となる。続いてクーデタにより実権を完全掌握し、1852年に国民投票によって皇帝の座に上りつめている。これが、ナポレオン3世である。