フランスの誇り
現在、「地獄のオルフェ」はフランス以外ではそうは上演されない。フランス語での会話シーンが壁となっているからだが、フランス語圏で上演される「地獄のオルフェ」は浮き立つほどの生気を帯びる。全体がエレガントであり、しかも独特のノリが勢いとなり、観客を退屈させるところがない。
観客はもちろん、演奏する側も歌手たちもノリノリになっていて、まるで茶道でいうところの一座建立の精神(その場に居合わす者すべてが心を一つにして、一体感のある空間をつくりあげること)がそこにあるのだ。
筆者は、「地獄のオルフェ」をパリで観たことはない。代わりというわけではないが、同じオッフェンバックのオペレッタ「美しいエレーヌ」をパリのシャトレ座で観たことがある。このときもオペラハウス内には一座建立の精神が噴出していて、観客は大笑いしながら、もはやオペラ座という空間に熱気を孕ませる一員となっていた。歌手たちやオーケストラも、その聴衆の熱気に負けまいとするくらいに才気を煥発させていた。
その意味で、「地獄のオルフェ」をはじめとするオッフェンバックのオペレッタはフランス人のためのオペラであり、フランスの誇りともいえるオペラではあるまいか。
