母の言葉を思い出すと気力が湧いてくる

今作では私にしては珍しく、ヘアメイクも衣装もマダム風。山田監督が衣装合わせの時、「挑戦的に」と何度もおっしゃっていました。だからアクセサリーも高価だし、手に持っているのはエルメスのケリーバッグなんですよ。

最初は慣れなくて落ち着きませんでしたが、きれいに塗ったネイルを見るたびに「挑戦的な爪だ」と合言葉のように唱えていたら、いつの間にか体に馴染んでいました。

そうそう、撮影で印象に残っているのは、山田監督が「肉を食べなきゃ。肉の弁当にしよう!」と言っていたこと。94歳にして〈挑戦的〉でいられる秘密は、いい作品を作りたいという情熱と、たんぱく質みたい(笑)。

監督より10歳近く下の私が疲れたなんて言っていられませんので、私も現場でお肉のお弁当を食べて、夜は十分に寝て、撮影に臨みました。

なぜ、そこまで頑張れるのか――それは、母の言葉が心に深く刻まれているからかもしれません。私がデビューした直後、とある仕事がしんどくて「もう帰りたい」と母に泣き言を言った時、「千恵子、ファンの人が待っているんだから、ちゃんと行かなくちゃ」といさめてくれました。その言葉を思い出すと、もう少し頑張ろうという気力が自然と湧いてくるのです。

この年齢になって、〈今〉が大事だと強く感じます。だから楽しく生きなきゃもったいない。そのために、これからも動ける体を維持していきたいですね。

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