先生は「ハイキング程度の山」を選んだと言いましたが、送られてきた予定を見ると、山小屋で2泊とあります。「ふ~ん、そんなものなのかな……?」と思っていましたが、行った先は北アルプスの燕(つばくろ)岳から常念岳への縦走コース。どちらも3000m近い山です。

まだ薄暗い早朝、歩き始めてすぐ、ハイキングではなさそうだということに気がつきました。それもそのはずで、私たちが登ったのは、北アルプスの三大急登ともいわれる厳しい登り坂。「歩けなくなってもひとりでは帰れない。ただやるしかない」と泣きそうになりながら登りました。

でも、生まれて初めて山小屋で男女一緒に雑魚寝をするのが、修学旅行みたいに楽しかったし、なにより感動したのが、自然の素晴らしさです。高山の花の女王とも言われるコマクサの群落も見ましたし、冬の白い羽になる前の雷鳥とも遭遇しました。

びっくりしたのは、太陽を背にして立った時、前方の靄(もや)に自分の影が映り、そのまわりを囲むように虹色の輪ができて――ブロッケン現象と呼ばれるそうで、なんと神々しいんだろうと感動したのです。

ほかにも、雲が晴れて、それまで見えていなかった景色が一気に全部見えるようになるさまは、まるで歌舞伎で幕を落としてパッと情景が変わる「幕の振り落とし」のよう。本当にドラマチックな3日間でした。

その日を境に、私はすっかり山の虜になり、国内だけではなく、ヒマラヤやキリマンジャロなど、海外の山にも出かけるようになりました。齢75にして、いまだに山に夢中です。