そんなふうにして、新人賞に応募することもなく、「いつかは小説家になる」という根拠のない確信を抱いたまま、あっという間に30歳に。ようやく「もしかして、自分から行動しなければ作家にはなれないのかも」と気がつきました。

ふと、東京で会社員を目指そうかとも考えたのですが、母から「会社員になるなんて夢みたいなことを言ってないで、コツコツ真面目に芸術をやりなさい!」と活を入れられて。やっぱり、変わった親ですよね。(笑)

ちょうどその頃、出版業界では電子書籍が第一次ブームを迎えていました。そこで出版社に営業をかけて、なんとかライトノベルを書くチャンスを手に入れることができたのです。その実績をもとに、ほかの出版社に営業をかけ……と、わらしべ長者のように仕事を増やしていきました。

当初は、ライトノベルなど若者向けのエンターテインメント小説で成功したいと思っていましたが、残念ながら鳴かず飛ばずの状況で。それがある日、純文学を扱う出版社から声がかかり、『完璧じゃない、あたしたち』という短篇集を刊行できることになったのです。

以前から書きためていた小説の企画をもとに、恋愛とも友情とも言えないさまざまな女性同士の関係を描いた23の短篇は、SFからミステリー、ヒューマンドラマなどジャンルも文体もバラバラ。

読者の皆さんの反応を恐る恐る窺っていましたが、思いのほか楽しんでいただけたようでした。純文学やエンターテインメント小説といった枠にこだわらなくてもいいんだ、と気持ちがラクになったことを覚えています。

この作品で小説家としての新たな一歩を踏み出せたことに加え、この時の編集者とタッグを組んで作り上げたのが『ババヤガの夜』なのですから、大きな転機でしたね。