空前絶後の最多入場者
1990年11月、中山競馬場のあたらしいスタンドが完成した。ふるいスタンドが建てられたのは1956年、第1回有馬記念(当時の名称は中山グランプリ)が開催された年だ。銀色の大屋根が目を引くスタンドは開放的で見やすかった。パドックから窓口、そしてスタンドへと、ファンが動きやすい、いいスタンドだった。ただ、年末はスタンドを吹き抜ける風が冷たく、有馬記念は寒さにふるえながら見ていたものだ。
それにたいして、それまでの競馬場とはかけ離れたきらびやかな新スタンドは、「ラブホテルと間違えた車もあった」というような笑い話もあったほどで、いかにもバブルの絶頂期を思わせる建物だった。地下1階(競馬場に地下ができたのもはじめてだった)、ゴンドラを含めて地上6階建てで、冷暖房が完備され、3、4階の指定席エリアは総ガラス張りになった。スタンドのなかにいれば、寒さを感じないで過ごせる。
オグリキャップが出走した過去2年はスタンドの改修工事中だったことで8万5000枚の前売り入場券を発売して入場制限をしてきたが、新スタンドの完成によって入場制限が解除され、この年の有馬記念は17万7779人もの入場者があった。
それまでの中山競馬場の最多入場者は、スピードシンボリが勝った1969年の有馬記念で13万788人である。それを約4万7000人も上まわる、空前絶後の中山競馬場の最多入場者である。あまりにも多くの人が押し寄せたために、入場門でも入場制限しなければいけないほどだった。