後頭部を殴られるような衝撃波を受けた
そんな状況でレースを待っていたから、実際のスタンド内の混乱の状況も、パドックで馬たちがどんな雰囲気で歩いていたのかも、まったく知らない。ただ、じっと、ターフビジョンの映像を見ながら待っていた。
そして、ようやく場内に音楽が流れ、誘導馬に導かれて16頭の出走馬が馬場にはいってくる。大歓声が沸き上がる。4枠8番のオグリキャップがダートコースに姿を見せると、さらに大きな歓声が起き、そのまま芝コースにはいってくる。「オグリ!」「オグリ!」。わたしたちが叫ぶ。当然、ついてくる者などいない。
そのときだった。突然、後頭部を殴られるような衝撃波を受けた。場内アナウンスでホワイトストーンが紹介されたのだ。この日もっとも大きな歓声でスタンドのファンに迎えられたのはオグリキャップではなく、1番人気の若い芦毛だった。ああ、そうだよな、とわたしは現実を知る。きょうのメインはオグリキャップの引退レースではなく、有馬記念なのだ。その主役はホワイトストーンなのだ――。
その直後、スタンドがどよめいた。なんだろうと思っていると、本馬場入場の歓声に驚いたヤエノムテキが岡部幸雄を振り落として放馬してしまったのだ。2年前にオグリキャップを有馬記念優勝に導いた名手も制御できないほど馬が興奮する空気があのときの中山競馬場をつつんでいた。ヤエノムテキは早めにつかまえられて、無事に出走できたのがさいわいだった。