角田 そうなんですか!?
楊 既婚女性が図書館で日本の雑誌を読むシーンを書くために、100年前にどんな雑誌があったのかを調べていたんです。そうしたら、『婦人公論』が出版されていたことを知りました。
角田 すごいリサーチ力! 話は戻りますが、30年代を舞台にした『台湾漫遊鉄道~』の主人公のひとり日本人の青山千鶴子は、当時としてはリベラルな考えをもった人といえます。それでも言動の端々に、無意識のうちの差別が滲み出てしまう。
もうひとりの主人公・台湾人女性の王千鶴は、そんな千鶴子に違和感を抱き、二人の関係はすれ違い続けます。非常に細かい感情のやりとりが緻密に描かれていて、圧倒されました。
楊 青山千鶴子の人物像は、作家の林芙美子をはじめ、植民地時代に台湾を訪れた日本人作家たちが書いたものを読んで参考にしています。たとえば、佐藤春夫や西川満などです。台湾に対してどんな考えをもっていたのか、旅はどんな様子だったのかなど、文字や表現から伝わってくる調子や意味合いを千鶴子に投影しました。
そして、小津安二郎の映画で日本式家屋での生活の描かれ方も参考にしましたね。そんなふうにピースを集めて、パズルのように組み立てていきました。
角田 そうでしたか。王千鶴さんにもモデルはいるのですか?
楊 はい。日本統治時代に、台湾初の女性新聞記者となった楊千鶴です。「日本人よりも美しい日本語を書き、衣食住は台湾らしさを守る」という信念をもった人だったのですが、現代の台湾ではあまり知られておらず、ぜひ登場させたいと思っていました。