「日本では近年、女性たちの連帯を表す〈シスターフッド〉という言葉が使われるようになり、そうしたテーマを扱う作品も増えています。台湾の百合小説は、それに近いのかなと思いました」(角田さん)

百合とシスターフッド

角田 ところで、楊さんが台湾の歴史を題材に小説を書こうと思ったのはなぜなのでしょうか。

 14年に国民党政府が中国と結ぼうとした「サービス貿易協定」に反対する若者たちが、「三一八運動」を起こしました。

角田 日本では、「ひまわり学生運動」という名前で知られていますね。

 ええ。中国と台湾が互いの市場を開放して貿易を拡大することを狙った政策ですが、国同士の関係が強化されることで、中国から台湾への干渉が再び強まるのではないかという懸念がきっかけとなった運動でした。

この時、私と同年代の人たちのなかで「台湾と中国の違い」や「台湾にしかないもの」をそれぞれの角度から探求する流れが生まれたのです。そこで私は「歴史」をテーマに選ぶことにしました。

角田 台湾での歴史教育はどういったものなのでしょうか。

 太平洋戦争終結後、国共内戦で共産党に敗れた国民党が中国本土から渡ってきたことで、台湾人は中国本土の歴史が台湾の歴史であるかのように教えられました。それによって、1945年より前の台湾の歴史は消されてしまった。

だからこそ私は本当の台湾史、なかでも1895~1945年の日本統治時代に台湾の女性たちがどう生きていたのかを知りたいと思ったのです。

角田 女性たちの暮らしを調べる作業は大変だったのではないでしょうか。

 ペンネームの「楊双子」は、姉である私、楊若慈(ヤンルオヅー)と双子の妹・若暉(ルオホイ)の共同ペンネームです。文学が専門の私と、歴史の専門家である妹の二人で論文や資料、小説、日記などを集め、時間をかけて調べました。

妹は30歳のときにがんで亡くなってしまいましたが、日本語文献の翻訳も担当してくれていたんですよ。

角田 二人の共同作業だったのですね。ところで、楊さんの小説は「百合小説」とも呼ばれています。日本で「百合」という言葉は〈女性同士の恋愛〉という意味をもっていますが、楊さんの小説はその概念とは少し違うな、と思うのですが。