肉とケーキは一生食べない!

大腸がんの原因のひとつとして、肉をはじめとする動物性脂肪が多く、食物繊維が少ない欧米型の食生活が挙げられています。私の食生活はまさに欧米型でした。そこで私は、大好きな肉、バター、ケーキ、チョコレートは金輪際口にしない、と決めました。医師に禁止されたわけではありませんが、これらを食べすぎて自分はがんになったのだから、やめれば元気になれる、と思ったのです。

けれど、ストイックすぎるとかえってストレスがたまり、少しならいいかと肉やお菓子を食べてはまたお腹が痛くなるということを繰り返してしまい……。失敗から学んだことを頼りに、術後の腸をいたわりながら再発を防ぎ、さらに健康を維持するための料理を研究しようと決意しました。

腸管には免疫細胞の6割以上が集中しているので、腸を元気にすれば免疫力が上がり、病気を寄せつけない体になります。ポイントは、便秘と下痢を防ぎ、腸内環境を整えること。肉など動物性脂肪をたくさん摂ると胆汁酸が分泌され、腸内の悪玉菌に酸化されて発がん物質を作ると言われています。砂糖も摂りすぎると悪玉菌のエサになるので、これらを制限することが必要。

一方で、善玉菌を増やすことも大切です。納豆などの発酵食品や食物繊維を積極的に摂取します。また、排便習慣をつけるため朝食は必ず食べ、食事は1日3回、大食いはしない。こうした食生活の改善に取り組みました。

ただし、人の体には個人差があります。お肉をたくさん食べてもがんにならない方も、もちろんいらっしゃる。ちなみに私は術後の回復期に便秘に悩み、改善のために生野菜やこんにゃくなど食物繊維をたくさん摂ったのですが、消化しきれずにこれらが腸に堆積。その結果、腸閉塞を起こして再入院、という苦い経験をしました。繊維が多くてみ砕きにくいものは、適量をよくんでゆっくり食べるか、細かく刻んで調理すべきだったのです。

食物繊維には、果物や海藻などのネバネバ食品に多く含まれる水溶性と、ごぼうや玄米などに含まれる不溶性の2種類があります。前者は、水に溶けるとゼリー状になり、胆汁酸を吸着して体外に排出する、便を軟らかくするなどの働きが。

水に溶けにくい後者は、腸壁を刺激して蠕動運動を促します。それぞれ働きが異なるので両方摂ることが大事。ただ、お腹の調子が悪いときは、不溶性を摂りすぎると胃腸が疲れるので注意が必要なのです。

常に自分の体の声に耳を澄まし、体が求める食事をすることが大切だと、私は身をもって知りました。

おからマフィンの予約販売を行っている横浜元町の店舗「元町カップベイク」にて(撮影:川上尚見)

ケーキのおいしさにショックを受けて

健康になるための食生活の改善に取り組みながら、私の中でムクムクと湧き上がってきたのが、お菓子を食べたい! という欲求でした。がん再発を防ぐため、バターや生クリーム、牛乳など油脂や乳製品、糖分を制限してきた私にとって、スイーツは敵のような存在。でも元来、大好きなものなので、それを一生我慢するなんて悲しい。手術後5年という山を越した頃、自分が安心して食べられる、体に優しいスイーツを探求してみたくなったのです。

手始めに、乳製品や小麦粉、白砂糖を使用しないマクロビスイーツや野菜ケーキの人気店を探して食べ歩きました。でも正直言って、おいしいと思えるものに出合えなかった。ならば自分で作るしかないと、有機無農薬栽培のにんじんやかぼちゃを使ったヘルシーな野菜ケーキの試作を始めて。「まあまあおいしい」という域には達し、自分では納得したつもりでした。ところが……。

料理教室の生徒さんが結婚することになり、ウェディング用のパウンドケーキを焼いてほしいと頼まれたのです。バターを使ったケーキを作るのは久しぶり。一口味見をしたところ、あまりのおいしさにショックを受けました。ヘルシーな野菜ケーキとは明らかにレベルが違う。悔しいほどの差でした。

人の舌と心を幸せにするのがスイーツの役目だと私は考えています。いくら体によくても、心からおいしいと感じられるものでないと意味がない。このことがきっかけで、バターや生クリームをふんだんに使ったケーキに負けないくらいおいしくて幸せを感じられるヘルシースイーツを作る、という新たな挑戦が始まったのです。

ちょうどその頃、私と同様、健康上の理由でスイーツを我慢している人がいるという話をあちこちで耳にしていたので、販売することを念頭に取り組みました。