創業200年、数々の文士に愛されてきた、銀座の小さな老舗呉服店『むら田』。60歳でその店を継ぎ、91歳まで店に立った店主・村田あき子さん。独特の美意識で、きものを愛し続けた女店主が、きものとともに生きた日々とは。あきこさんがその人生を語った『九十一歳、銀座きもの語り』より、一部を抜粋して紹介します。
二つの結婚式
昭和36(1961)年、「むら田」入社から4年目の春に跡取り息子の悳次と結婚しました。修行先の永平寺から帰京後間もなくのことで、離れていた期間があった分お互いの気持ちが深まり、特に悳次の熱意に押し切られたかたちでした。
そもそも悳次にしてみれば、父親の眼鏡にかなった人でなければ結婚を許してもらえないと分かっていましたから、助手として務まっていた私に目が向いたのだと思います。
板谷の家では母がずいぶん心配顔でした。何しろ全く家風が違う。商家を支えていくことの苦労と、顔合わせで先代に会ってみると気難しそうな印象で、嫁として仕えていくことにも相当に苦労が多いのではないかと思ったようです。
それでも両親ともに私の意志を尊重して反対することはなく、祖父も吉祥(きっしょう)文の仙桃(せんとう)模様の帯を描いて祝福してくれました。この帯は今も大切に保管しています。