貞子との共通点を見出せる「ギリシア神話の怪物」

貞子のように「見る」力を発揮する女性の怪物といえば、真っ先に想起されるのはギリシア神話の怪物・メドゥーサであろう(※5)。メドゥーサは見た者を石化させてしまう恐ろしい「邪眼」の持ち主だが、最後には英雄ペルセウスによって首を刎ねられ、退治される。

哲学者のジュリア・クリステヴァは、メドゥーサの恐怖を次のように分析している。

人類学者たちや美術史家たちは、この身をくねらせる蛇の髪を生やした、ぬるぬるした頭が、女性の性器──幼い少年が「ちらりと見る」ようなことがあると、彼をすっかり怯えさせてしまう母親の外陰──を連想させることをかならず強調してきた。フロイトはそこに女性の去勢と、人間たちを生む谷である母親の性器の力強さが引き起こす、魅力と恐怖を読み取っている。しかしながら、メドゥーサの象徴的意義を説明する際に、眼に注目することを忘れてはならない。メドゥーサ=ゴルゴンは見ることができない、その眼差しは石に変え、その眼は災いをもたらすのだから。邪眼は人を殺す(※6)。

※5…貞子とメドゥーサに共通点を見出す分析は、西山智則による『恐怖の表象 映画/文学における〈竜殺し〉の文化史』(彩流社、2016年)でも見られるほか、前掲の拙稿「Jホラーにおける女性幽霊の眼差しとメディア」において試みている。
※6…ジュリア・クリステヴァ『斬首の光景』(星埜守之・塚本昌則共訳、みすず書房、2005年)45頁