(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
『リング』『呪怨』に代表されるように、日本ではこれまで数多くのホラー映画が製作されてきました。こうした「Jホラー」について、開志専門職大学助教・鈴木潤先生は、「ビデオ、映画、テレビ、動画共有サイトなど、いくつものメディアを渡り歩き、重層的に歴史を紡ぎ続けている」と語ります。今回は、鈴木先生の著書『Jホラーの核心: 女性、フェイク、呪いのビデオ』から一部を抜粋し、お届けします。

レンタルビデオをめぐる欲望、そして反撃──映画『リング』(1998)

『リング』という作品にとって、主人公が遭遇する「呪いのビデオ」がレンタルビデオの棚に紛れ込んだ「異物」のごときビデオテープであるという点は極めて重要である。しかし、実は原作小説と映画とでは、主人公が「呪いのビデオ」と遭遇するに至るまでの経緯、「呪いのビデオ」がなぜ「レンタルビデオ」として配架されているのかの経緯がわずかながら異なっている。まずはその差異を確認しよう。

小説『リング』では、主人公・浅川和行は客室のメッセージ用ノートに記載された内容(※1)と、ノートに残された開き癖から、同時刻に怪死した若者グループがこの客室で何らかのビデオテープを見ていたのではないのかと目星をつけて管理人室へと向かい、ラベルの貼られていないビデオテープを発見する。管理人によると、このテープは部屋に置かれたままになっていたものを、レンタルビデオサービスの商品だと思い、回収してきたものだという(※2)。

それに対して映画『リング』では、客室のメッセージ用ノートにはビデオの存在を匂わせる記述はなく、使われていたのも開き癖のつかないリングノートであった。若者グループが宿泊した部屋で手がかりを見つけることができなかった浅川玲子が取材のために管理人室を訪ねた際、偶然、レンタルビデオサービスの棚に配架されたラベルの貼られていないビデオテープを発見する。テープの詳細を問われた管理人が「お客さんの忘れ物かな?」と不思議そうにしていることから、彼にはこのテープに心当たりがないことがわかる。

※1…「ごくっ。警告。度胸のない奴は、コレを見るべからず。後悔するよ。ヘッヘッヘ。S.I.」(鈴木光司『リング』角川書店、2012年[第43版]、78頁)
※2…前掲、82頁