美津子よりしたたかな『ドールハウス』の礼人形
ところで、2025年6月13日に公開された映画『ドールハウス』〔監督:矢口史靖〕は、『仄暗い水の底から』からさらに進化して、非業の死を遂げた子どもの怨霊による「家」という空間ごと含めた「家族」の乗っ取りという強烈な恐怖の物語を描いた。
矢口は『ウォーターボーイズ』〔2001年〕や『スウィングガールズ』〔2004年〕などの青春コメディ作品の印象が強い監督だが、その一方で、関西テレビで放送された『学校の怪談』〔1994年~2001年〕で「悪魔の選択」〔1999年〕、「恐怖心理学入門」〔2000年〕などを手掛けており、実はホラー作品と縁のある監督でもある。
本作では、子どもを家庭内の不慮の事故で亡くした母親・鈴木佳恵〔演:長澤まさみ〕が、偶然立ち寄った骨董市で亡き娘・芽衣〔演:本田都々花〕によく似ている(ように見える)礼人形(あや-にんぎょう)と出会う。自らの不注意で娘を死なせたと苦悩し続けていた佳恵は、この人形を芽衣の代わりとして可愛がることによって回復し、やがて次女・真衣〔演:池村碧彩〕を授かる。
かつては鈴木家の壁一面を埋めていた佳恵と礼人形との「家族写真」も、真衣の誕生・成長とともに、佳恵と真衣との写真へと塗り替えられていく。真衣に「家族」を奪われたかたちとなった礼人形は、捨てても捨てても戻ってくる「呪いの人形」として、真衣の「家族」を乗っ取ろうとする。
しかも、赤ん坊の真衣を危険にさらしたことによってクローゼットの奥深くにしまい込まれてしまった礼人形は、5歳になった真衣自身の手で見つけ出されると、時折凶暴な本性を覗かせはするものの、まずは彼女の友達「アヤちゃん」として鈴木家内での地位を徐々に確立させる戦略をとっていく。礼人形は、「大人が掌握していない友達」に過ぎなかった美津子よりしたたかである。
そして、この礼人形は人形作家・安本浩吉の娘・礼の遺体から作り出された、いわゆる呪物である。礼は、病弱な娘を看病する貧しい暮らしに追い詰められた母・妙子から虐待を受けており、その果てに無理心中を図られ、礼だけが命を落とすという非業の死を遂げていた。
礼人形は副葬品として妙子の棺に入れられたが、礼の魂が自らを虐げた挙句に殺害した母親とともに埋葬されることをよしとするはずがない。礼人形を手掛けた後、高名な人形作家となった安本の作品が高値で取引されるようになると、妙子の墓は何者かに暴かれ、礼人形は姿を消していた(※1)。
自由となった礼は、自分を愛し、慈しんでくれる家族を求め、やがて佳恵たちと出会い、「家族の最愛の娘・真衣」というポジションを奪って鈴木家を乗っ取ることに成功するのだ。
※1…この人形にまつわる都市伝説では、人形は礼が生前大切にしていたものであり、失踪扱いとなった礼の代わりに母親が可愛がっていたが、母親の副葬品として埋葬された後、自らの意思で墓を抜け出し、本来の持ち主である礼を探してさまよっていると説明された(夜馬裕/原案・矢口史靖『ドールハウス』双葉社、2025年、116─117頁)。