(写真提供:Photo AC)
『リング』『呪怨』に代表されるように、日本ではこれまで数多くのホラー映画が製作されてきました。こうした「Jホラー」について、開志専門職大学助教・鈴木潤先生は、「ビデオ、映画、テレビ、動画共有サイトなど、いくつものメディアを渡り歩き、重層的に歴史を紡ぎ続けている」と語ります。今回は、鈴木先生の著書『Jホラーの核心: 女性、フェイク、呪いのビデオ』から一部を抜粋し、お届けします。

大人の知らない団地──映画『仄暗い水の底から』(2002)

『リング』〔1998年〕と同じく、鈴木光司の小説を原作とする映画『仄暗い水の底から』は、2002年に中田秀夫が監督を、中村義洋と鈴木謙一が脚本を務め映画化された。中村と鈴木といえば、オリジナルビデオ『ほんとにあった!呪いのビデオ』〔1999年~〕の初期作品を演出・構成したスタッフでもある。

『仄暗い水の底から』で描かれるのは、集合住宅が持つ「自分の家だが、自分の家だけではない」という空間の“掌握しきれなさ”に起因する不安である。団地の内見時、主人公・松原淑美〔演:黒木瞳〕がふと目を離した隙に一人娘の郁子〔演:菅野莉央〕がひとりで屋上に遊びに行ってしまうというアクシデントが発生し、淑美はうろたえる。郁子は無事に屋上で発見されるのだが、この出来事を通して、淑美は管理人でさえもこの団地で何が起きているのかを掌握できていないという現実を突きつけられることになる。

淑美がこの団地に対して漠然と抱く不安は、ただでさえ郁子の親権をめぐって夫と争っているために神経質になっている彼女を追い詰めていく。経済的にも精神的にも、郁子の親権を持つに足る人物であることを調停委員に証明しなければならない淑美にとって、自宅であるはずの団地ですら気を抜ける場所ではないのだ。

しかも、そんな団地であっても、郁子が幼稚園を転園することになっては調停委員に悪い印象を与えかねないので、引っ越すのは得策ではないと弁護士の岸田〔演:小木茂光〕に言われてしまう。淑美は、この団地で暮らし続けるしかないのである。