「30代」が大きなターニングポイントに

人ならざる存在であるおろちが老いることなく長い年月を生き続けるのとは対照的に、門前家の女性たちは「29歳」という美貌のタイムリミットを避けることができない。彼女たちは美しさを保ったまま30代を過ごすことはできない運命にあるのだ。

経営コンサルタントの海老原嗣生は、女性の人生とキャリアにおける「年齢」の問題について、1981年放送のテレビドラマ『想い出づくり。』〔制作:TBS〕のいくつかのシーンを取り上げながら、かつて使われた「クリスマスケーキ」に女性の人生をなぞらえた表現を紹介するとともに、1980年代の「日本の大手企業で働く女子のスタイル」は「短大かもしくは四年制女子大を卒業し、事務職として会社に勤める。それも、たいていは腰かけで寿退職。どんなに長くても30歳が限界」であったとし、このようなかつての女性の働き方を「定年30歳」と表現した(※2)。

25歳を超え、四捨五入すれば30歳になる女性を、25日を過ぎれば「売れ残り」として扱われるクリスマスケーキにたとえた、この非人道的とも言うべき表現は、女性の人生とキャリアを年齢、すなわち若さでしか評価していないという価値観の表れである。女性も男性も等しく年齢を重ねていくにもかかわらず、多くの場合、女性の人生においてのみ、年齢を重ねることがマイナスの意味を持つものとして位置づけられてきたのだ。

また、社会学者・上野千鶴子とカウンセラー・信田さよ子の対談『結婚帝国 女の岐れ道』〔講談社、2004年〕の帯にも「「30代・女」の岐路を読み解くキーワード」「結婚か、非婚か、「30代・女」の瀬戸際の攻防」というフレーズが躍っていることからもわかるように、女性の人生とキャリアについて語るとき、「30代」が大きなターニングポイントと捉えられることは多い。

酒井順子のエッセイ『負け犬の遠吠え』〔講談社、2003年〕でも、「負け犬」は未婚で子どものいない30代以上の女性を指す言葉として用いられていた。

※2…海老原嗣生(2012)『女子のキャリア〈男社会〉のしくみ、教えます』筑摩書房、16─28頁