「やりたかったから」
「絶対うまくいかないから」なんて言っている経営者としては、読めば読むほど自分のバカさ加減が身に染みます。なんせ失敗するプロジェクトばかりやってきたわけですから。
「おっしゃる通り、その通りです」「私がバカですから」と頭を抱えて反省するしかありません。
思い起こせば、いくつもの失敗事例が頭をよぎります。
また、経済合理性から考えればどう見ても普通の選択肢と逆にいったことも多々あります。例えば、山口県庁などと軋轢が起こることが予想されるにもかかわらず、県の奨励品種の酒米を無視して山田錦に集約してしまったこと。酒造業界でだれもやらなかった、市場のない、確立された量産技術のない、ないない尽くしの純米大吟醸造りに挑戦し続け、それを酒蔵の製品ラインのど真ん中に据えたこと。
諸先輩方の忠告を無視して、地元に依存するのではなく山口県外に飛び出して東京市場に活路を見出したこと。アメリカに酒蔵を造ったことだって、現段階ではとても合理的な判断とは言えません。
しかし、振り返ってみて、その時の自分を思い出すと、「やりたかったから」としか言いようがないんです。まるで「悪魔に魅入られた」みたい。
何より不思議なのは、いくら考えても、これらの失敗の数々がなければ今の獺祭がないということです。後から考えると、「あの時やらなきゃ、あの数億円は損しなかった」とか「あの時こっちの道を選択したほうが得だった」という選択肢がいくつも浮かんできます。
しかし、その合理的な選択肢の結果を考える時、今の売上げの20分の1ぐらいの規模の、クレバーだけど、全国を探せばありそうな、「普通の酒蔵」しか思い浮かばないのです。山口県内でそれなりの酒蔵にはなったと思いますけど、おそらく、それだけ。今の獺祭の現状が説明できないのです。