ある日、私は転んで大腿骨を骨折し、2ヵ月ほど入院することに。退院後は歩けるようになったものの、自分のことだけで精一杯になってしまった。買い物ぐらいは行けるが、階段を上って4階まで届けるのは大変だ。

そこで、ある作戦を思いついた。ロープの先に金具をつけ、袋に入れた荷物を上げ下げする方法、名付けて「ドローン作戦」。買い物を頼まれた品物や集合ポストの中の郵便物が、「ドローン」で部屋まで上っていく。

するとTさんが品物を受け取り、代金が下りてくる。一緒にゴミ袋なんかも下りてきて、集積場に運んであげたりもした。低層階に引っ越したほうがいいのでは、という人もいたが、Tさんは愛着のある部屋で一日でも長く暮らすことを望んでいたのだ。

ところがある日、電話をしても応答がない。みんなで4階に行くと、新聞がドアポストに差し込まれたまま。ノックしても返事がない。心配になって救急車を呼ぶと、中でTさんは倒れて動けない状態だった。

寒い時期で発見が遅れたこともあり、Tさんはほどなく亡くなられた。とても博識でいろいろなことを教えてくれ、「近いうちにピザパーティをしよう」と楽しみにしておられたのに……。

今は、4階を見上げるたびに「助けてあげられなくてごめんなさい。楽しい思い出をありがとう」とつぶやいている。


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