「名医」の条件は“腕”だけにあらず
専門医資格は医師の「腕」を見る指標として不可欠の条件ですが、医師の良し悪しは、必ずしも「腕」だけでは決まりません。もう一つ大事な条件があります。それは、コミュニケーション力です。
20年近く前に、とあるがんセンターの副院長の先生から聞いた話ですが、病院でのトラブルの原因の9割以上が、“医師と患者とのコミュニケーション不全に起因”するそうです。
その後、私自身も、がん患者さんとは数多く接触してきて、知り合った患者さんに発生したトラブルを観察するにつれ、この先生の言葉は至言だったと確信しています。
一例を挙げましょう。
私が、とある70代の女性の患者さんの外来診療に付き添った時の話です。(*本人の了承を得ています)
主治医の先生は泌尿器科医で、腕が良いという評判を聞きつけて、この患者さんは良性の腫瘍の手術を受けたのですが、摘出した検体を調べたところ、実はがんであることがわかりました。きちんと取り切れていなかった可能性を考えて、追加の切除手術も受けました。
私が付き添った日は、追加手術の後に行った画像検査(MRI)の結果説明と今後の治療方針を聞く、大事な節目となる診察のタイミングでした。
コンコンコンとドアをノックして、「失礼します」と挨拶しながら診察室に入ったところ、主治医の先生はこちらを見向きもせず、難しい顔つきでじっと目の前のPCの画面を見ています。着席して無言のまま過ぎること30秒。さすがにこちらから声をかけようかと思ったところで、主治医が画面を見たまま口を開きます。「これは、もう一度、今度はもっと深くえぐり取らないといけないね」。
この一言を聞いた患者さんは、わっと両手で顔を覆ったまま、ショックで何も言えなくなってしまいました。ここで私が口を挟みます。
私:「先生、追加の手術が必要ということですが、なぜでしょうか?」
主治医:「MRIの画像でモヤモヤとした影が映っていて、がんがまだ残っていることが否定できないんで」
私:「追加の切除術で、断端は確認されたのでしょうか? MRIの画像だけだと、がんではない可能性もありますよね? 術後の炎症が残っていて、モヤモヤしているとか。そうであれば、今しばらく様子を見るという選択肢は取れないのでしょうか?」
主治医:「……」
少し間をおいて、「もうそれなら、様子見でいいでしょ」と、主治医は不機嫌さを隠さず、捨て台詞のように言葉を発しました。
ここまでひどい対応をする医師を見たのは私も初めてで、これは絶対に主治医を変更しないとまずいと判断し、患者さんの同意を得た上で、別の主治医を探しました。その後は結局、追加手術の必要も全くないまま経過観察のみで、この患者さんは今でも何一つ問題なく日常生活を送っています。