夫婦としての最後のミッションを果たして
残間 ちょっと話を戻しますが、さきほど大石さんから地上波と配信という話がありました。地上波か配信かによってドラマを描き分けているのですか?
大石 私はNetflixで連続ドラマを書いたことがあるのですが、配信のドラマというのは、連続ドラマであっても好きな時に一気見ができるわけですよ。いつでも好きなだけドラマを観ることができるという配信の便利さや手軽さはありますが、本当に地上波で面白いドラマを作ったら、1週間に1回分が放映される地上波のドラマが楽しみということもあると思うし、地上波は必ずしも配信には負けないだろうと思ってます。
残間 配信ドラマに負けない地上波のドラマを作るためには、何が必要だとお考えですか?
大石 自分の作品においてなら、配信ドラマか地上波ドラマかに関わらず、私の人生哲学みたいなものがチラッと見えれば、と思っています。
残間 人生哲学の主軸になっているのは何ですか?
大石 先ほども触れましたが、「生きることは辛い」ということです。私の手掛けた作品には耽美なラブストーリーであっても、生きることは辛いことだというテイストが入っていると思います。
残間 『光る君へ』の放映は2024年でしたが、2022年にお会いした時、ご主人の病状がよくないという頃で、間もなくご主人が旅立たれてしまって。看病と大河という大仕事が重なるというのは大変でしたね。まさに生きていることの辛さを体現したと言えそうですが。
大石 3ヵ月で7キロ痩せました。2022年の9月に肺がんであることがわかって、当初は翌年の3月くらいでしょうと余命宣告されていたんです。もしも3月まで夫が生きていたら、看病しながら大河を一人で書き抜くことは無理だと感じていました。もう降りるしかないかな? と思っていたんですが、夫は12月半ばに逝きました。もちろん仕事のことを夫に話したりはしませんでしたが、12月がデッドラインだと夫の魂がわかったんじゃないでしょうか。私の邪魔をしないように早めに逝ったのだと思います。
残間 泣きました?
大石 やるだけやったという想いがあったせいか涙は出ませんでした。夫は私より8歳年上なので、結婚した時から自分が夫を見送るんだと覚悟していたこともあって、夫が不安なく、苦しまずに旅立てるようにプロデュースすることが妻としての最後のミッションだと思いましたから。
残間 本当にその通りになったのですね。
大石 最後の日は機嫌も良くて。少し前に大河の取材で宇治の平等院へ行ったのですが、ご住職が死を迎える時には先立った人達が鐘や太鼓を叩いて迎えに来ると。だから誰でも楽しく死を迎えるんですよとおっしゃっていたんです。半信半疑だったのですが、夫が病室の白い壁を見つめて、先に死んだ知人や友人の名前を上げながら「みんないるよ」と言っていて、平等院で聞いた話は本当だったのかと。それから3時間後に息を引き取りました。
残間 逆のケースもあると聞きますよ。つまり怖い人ばかりが迎えに来るというのもあるということなんだけど、ご主人は幸せでしたね。
大石 私は死んでも母や父には会いたくないなぁ。夫が迎えに来てくれたらいいなぁと思いました。