完熟トマトを手で
NHK「きょうの料理」の講師役で初出演したのは、一九八五(昭和六十)年です。アナウンサーの山根基世さんがアシスタントで、私は実家伝来の「牛トマ」を紹介しました。
牛肉をじゃっじゃっと軽く炒めておき、フライパンに熟れてうまみがいっぱい詰まったトマトを入れる。トマトがデレデレと煮崩れたら、牛肉を戻して塩コショウで味を付ける三分間ほどの簡単料理。ご飯にもパスタにも合うし、サワークリームを添えるとごちそうにもなる。祖父のブイが好きだった料理だそうで、父も好きで母がよく作ってくれました。
テレビで作った時も、いつもの家でのやり方の通りに完熟トマトを手でぐしゃぐしゃとつぶしてフライパンに入れました。その方が味が出ておいしいの。そうしたら「品がない」「NHKらしくない」という抗議の電話やハガキが殺到したらしいのです。
<NHKのチーフディレクターだった若山慧子(けいこ)氏は「机の上に三センチほどクレームのハガキの束が届いたこともあった」と当時を振り返る。それでも「家族の料理を毎日作っている人ならではのユニークな発想と、料理が好きでたまらない気持ちがあふれていた。今は理解されなくても、いずれ彼女の時代が来ると思った」と起用を続けた。新聞にも共感する投書が載った>
当時は上品で丁寧な料理の先生ばかりだったので、私が目立ったのでしょう。出演した番組を家で見ていると、和田さんも後ろで見ていて、何も言わないけれど、にやっと笑って面白がっているのがわかりました。「きょうの料理」のテーマソングに合わせて、「おいしいお料理食べて その上からだにいいの みんなで仲良く食べて すくすく元気♪」と即興で替え歌を作ってくれたことも。番組で私が歌って披露しました。