ですから私は常々、「悲しみや苦しみは、お釈迦さまからの『アンテナを立てよ』という慈悲のプレゼント。ありがたく受け取りましょう」とお話ししています。

病気を治したいというアンテナを立てるからこそ、よき医師、よき薬に巡り合えるように、苦しみや悲しみのおかげで切に求めるアンテナが立ち、よき師、よき教えに出会うことができる。それが、ひいては幸いへと転じていくのです。

もう一つ、私が病床で何度も思い返し、しみじみと味わった一節があります。それは、曹洞宗を開かれた道元禅師の「四運(しうん)を一景(いっけい)に競う」というお言葉。四運とは、季節でいうなら春夏秋冬、人生でいえば生老病死。一景とは、「同じ一つの姿勢」という意味です。

道元さまは、「人生は四季のように移ろうもの。生も死も、健康も病気も、愛も憎しみも、成功も失敗もあらゆることが起こりうる。しかし、どんなときものぼせ上がったり、落ち込んだり、逃げたりせずに同じ姿勢で受け止めよ。さらに一歩進めて、すべてを豊かな景色として味わいなさい」と諭しておられます。

自分の身に何が起ころうと、ここを正念場として腰を据え、しかと受けて立つ。さらに一歩進めて積極的に豊かな景色として楽しむ。私も病気をいただいたおかげで、この教えの重みを改めて実感することができました。

うれしいことも、つらいことも、いろいろあるほうが人生は豊かです。電車の旅も、景色に変化があったほうが楽しいではありませんか。

後編につづく

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