日本の伝統文化が世界から評価される理由

第一に、日本の伝統文化には「自然との共生」という普遍的なテーマが流れています。

万物に神が宿っているという「八百万の神」の世界観を根底にもつ我々日本人は、山や川など自然への敬意を抱き、季節を細やかに感じ取る感性を育んできました。

例えば、私が日々扱う着物には、たくさんの自然界を映した文様が描かれていますが、全て意味があります。

「さくら」は、「さ神」さまという豊作をもたらす神様が宿る木。雨や雷をもたらす「雲」には偉大な神が宿る。「青海波」は永遠を現すなどなど、日本人は自然に神様が宿ると信じ、共に生きてきたのでした。

人間のエゴが招いた気候変動が深刻化する現代において、この自然観は世界を救う道しるべになると注目を集めているのです。

第二に、日本の伝統文化の中心には「調和」の精神があります。日本人は、万物すべてに神性を感じるので、自己の主張よりも、周囲との「調和」を重んずるのです。

茶道の「和敬清寂(わけいせいじゃく)」、能や歌舞伎の間(ま)の美学、折形や礼法の所作に至るまで、すべてが相手や場の調和を図る姿勢で貫かれています。

ロンドンで着物店を営んでいたときには、定期的に茶道の体験講座を開いていました。

「扇子を自分の前におくことで、手前に下座、向こうに上座を創り、茶室や相手への尊敬や謙譲を表すのです」など茶道の所作を解説すると、参加されたヨーロッパの人たちからいつも感嘆の声がもれてきました。

分断が深刻さを増す世界において、調和を重んずる日本文化は、分断をうめる潤滑油として、新鮮に映るのです。

第三に、美意識の高さと丁寧な仕事も魅力です。和食の繊細な盛り付け、伝統工芸の緻密な技、また職人の仕事に込められた精神などです。

針というほんとうに小さな物一つが使えなくなっても、我々日本人は、「針供養」といって、針に宿る魂の成仏を祈ります。この小さな物にまで配る畏敬の精神が、高い美意識や丁寧な仕事を実現しているのです。それは、空間を隅々まで美しく照らし、人の心を整えてくれます。

(写真提供:Photo AC)

日本の伝統文化は、派手さや強さよりも静けさと深さを重んじます。そこに、精神的な豊かさを求め始めた世界が強く共鳴しているのです。