兄の心を動かしたドラマ

私は恋愛ドラマに全く興味がなかったのだが、韓国ドラマ『冬のソナタ』が、日本でも衛星放送で話題なのは知っていた。2004年に地上波のNHK総合テレビで放送された時に見て、物語の展開と俳優の魅力に引かれ、毎週の楽しみとなった。

ドラマの第4回の時に、私がテレビを見ていると、風呂から出てきた兄がテレビの前の椅子に座り見始めた。そしてドラマが終わると、「これまでのあらすじを教えてくれ」と、私に言ったのである。私は驚き、そばにいた母も驚いた。

私があらすじを教えると、兄が「来週も見る」と明るい顔で言った。それから、毎週、兄は『冬のソナタ』を見て、「主題歌が言葉はわからないけどいいなあ」、「彼女はどちらの男を選ぶのだろう」、「来週はどうなるのだ」と、私に話しかけるようになった。

『冬のソナタ』の放送が終わっても、兄と私は他の韓国ドラマをテレビで見るようになった。私が残業でドラマが見られない時は、兄はその回の内容を詳しく話してくれた。

兄はテレビの録画操作ができず、今のような見逃し配信もなかったからである。『冬のソナタ』が奇跡を起こし、兄と私は別のことでも普通に会話ができるようになった。

昨年大晦日のNHK紅白歌合戦で、特別企画として矢沢永吉さんが出演した。私は6年前に70歳で亡くなった兄の遺影をテレビの前に置いて一緒に見た。

歌う姿の偉大さとカッコ良さに、兄が矢沢永吉さんに心酔していれば、楽しい人生を送れたのではないかと思い、涙が止まらなくなった。

(写真:stock.adobe.com)

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