美術館のガラス窓におすすめの本を書き残してくれた彼女には会えないかもしれないが…(写真:stock.adobe.com)
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JKからの伝言

私の住んでいる市の美術館は、近年の酷暑対策としてクーリングスポットを提供している。通常はイベントのときに使用するホールを、夏の間「スカブラひろば」という名前で開放しているのだ。

「スカブラ」とは筑豊地方の炭鉱で使われていた言葉で、作業には加わらず、労働者たちの潤滑油のような役割を果たした人のことだという。

広場には大きなガラス窓があり、そこにパステル画材で自由に絵を描いていいことになっている。入道雲、波しぶき、花や人の顔の絵もあり、にぎやかな雰囲気だ。その中に水色のきれいな字で何か書かれているのを見つけた。「時間があったら、この本を読んでみてください。17歳のJK(女子高生)より」。

彼女のおすすめの本は2冊。私は司書をしているので、2冊とも知っていた。1冊は人気フードエッセイスト・平野紗季子さんの『ショートケーキは背中から』。昨年出た本で、私も好きな作品だ。女子高生がよくぞこの本にたどり着いたものだと感心した。

もう1冊は、河野裕(こうの・ゆたか)さんの小説『いなくなれ、群青』。1冊目と違い、10年以上前に出版された本だ。誰かにすすめられたのか、はたまた自分で図書館や書店で見つけたのか。想像はふくらみ、私もこの本を手に取った。

これまでに司書として、公立図書館と3つの小学校で働かせてもらった。別の業種についたこともあるけれど、やはり本が好きという気持ちが強く、本の話をすることも大好きだ。

美術館のガラス窓におすすめの本を書き残してくれた彼女には会えないかもしれないが、メッセージをちゃんと受け取ったと伝えたい。「私も読んだよ、すごくよかったよ」と。

折しもこの夏、隣町に若者が新たに小さな書店をかまえた。彼いわく、「一番好きな小説を挙げるとすれば、『いなくなれ、群青』です」とのこと。くだんのJKがいつかこの書店を訪れることがありますように。


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