「私、55歳の女の子ですけど(笑)、年配の方々とよくおしゃべりするんですね。すごく喜んでくれて。」(稲垣さん)

ゆるく人とつながって見守り、見守られる

稲垣 地域ということでは、今の私の暮らしは小さな家に住み、お風呂は銭湯。同じ時間に行き合わせる顔なじみの人もいる。毎日の食材の買い物もご近所で。近くにある公園では、よく年配の方々がたむろしているんですが、私も交ぜてもらって話をするんです。おすそ分けをしたり、町内の盆踊りに参加したり、地域のなかでゆる~く人とつながっていて、見守り見守られ、といった感覚です。

上野 そういうところを選んで住まわれたんですか?

稲垣 会社を辞めたので家賃の安いところを探して、たまたま見つけたのがそういう地域でした。豆腐屋や米屋もあるような。銭湯には認知症の方も来られます。人の荷物を持って行こうとして、「これあなたのじゃないのよ」と言われて本人が慌てたり。そういう光景も日常的なんです。

上野 “地域”はマジックワードですね。実際は、支えるよりも排除する機能が強い。「こんな年寄りをひとりで置いておくなんて」と。そうしたなかでも、通いと泊まりと訪問を結びつけて、在宅独居を支えている介護事業者もいます。「あなたたちもいずれこの道をたどる。まわりの人たちがほんのわずかな目配り、気配りをしてくれさえすれば、認知症の人もひとりで暮らせるし、いずれはあなたもひとりで家にいられる」。そう住民に呼びかけ、地域に介入しているのが素晴らしいところです。

稲垣 私の実感としても、やればできる気がします。そんなふうに現実に独居の認知症の方が増えていくと、すごく希望が持てます。

上野 社会学者はこれを「社会関係資本」と言うんですよ。資本は利益を生む。在宅独居を受け入れる地域の社会関係も、利益を生むものだと。稲垣さんのお住まいの地域には、もともとそういう社会関係資本があったのでしょうか。

稲垣 あったと思います。でも、自分で言うのもなんですが、それをちょっと活性化させた自負もあります。お年寄りだけの助け合いはあったけれど、若い人は関わっていなかった。そこへ──あっ、私を若いと言うかどうかは別ですけど。

上野 若いですよ。このあいだ、80代のおじいさんが「45歳の女の子が」と言ってましたもの。(笑)

稲垣 私、55歳の女の子ですけど(笑)、年配の方々とよくおしゃべりするんですね。すごく喜んでくれて。

上野 あなた、マレビト(客人)でしょう。よそから入ってきた人。地域社会づくりの実践家を見ると、在来資源にマレビトが入ることで、触媒になることがあります。その意味で稲垣さんも貢献をなさっているんですね。