「人に委ねていいこともいっぱいある。私はわりあい平気でやっています、「お願い」「これはあなたしかできない」って(笑)。」(上野さん)

いちばんの備えはパンツを頼める友人!?

稲垣 上野さんは、認知症独居への備えはどのように?

上野 今の脳の状態を記録に残しておこうと、専門医のところに行き、MRIの画像を撮って、カルテも作ってもらいました。平常の状態をデータとして把握していれば、変化がわかるし、相談しやすくなります。

それから訪問医、訪問看護ステーション、訪問介護事業所の方とお近づきになりまして。介護事業所と相談して「おひとりさまプラン」という商品をつくってもらいました(笑)。年間契約で定額を払い、自宅の様子を見てもらえるもので、鍵を預けてあります。遺言執行人も指名していますし、任意後見人になってくださる方も念頭にあります。

稲垣 上野さんは歳をとったらオール電化を勧めておられますね。

上野 IHクッキングヒーター、電気ポット、電子レンジ……。

稲垣 ただ、そうした調理器具を導入したとしても、歳をとってからでは使えませんよね。私の母もIHのタッチボタンはとても対応できなかったと思います。

上野 早い時期から慣れておくことは必要です。私は今の住まいに入居したとき、IHに替えてもらいました。それから備えの基本は、年金と健康保険と介護保険、この3点セットですね。

稲垣 私の備えは、最初に言ったように自分の欲も身の回りのものも極力少なくしていくこと。あと知り合いを増やすことです。自分がもし入院したら誰が着替えのパンツを持ってきてくれるか、と考えたことがあります。すぐに頭に浮かんだのが、「編み物友だち」。週1で3人で一緒に編み物をしているだけのゆるい仲なんですが、きっと持ってきてくれるだろうと。

上野 パンツのある場所まで知っている友人をつくっておられる?

稲垣 鍵を渡して「あそこにあるから」と言う私も恥ずかしくないし、向こうも「えっ?」と思わない。そういう友人です。がっつり誰か1人に頼るというのでなく、いろいろな人に頼るのがいいなと。

上野 そうそう、分野別「依存先の分散」と言った人もいました。背負える程度の負担を少しずつたくさんの人に。

稲垣 家族だと“がっつり”全部になりがちだから、双方、大変になる。認知症や体に障害をかかえたとき、ひとりで暮らしながら最期というゴールにたどり着くには、普段から、家族以外の人のお世話になることに慣れておくのは、とても大事な気がします。

上野 ところが、自立して生きてきた自信の強い人ほど、「人に世話されることに抵抗がある」とおっしゃる。

稲垣 自分で頑張ることももちろん必要ですけど、人の手を借りて「ありがとう」と言う。その両方が必要だということが、私も今になってわかってきたところです。

上野 人に委ねていいこともいっぱいある。私はわりあい平気でやっています、「お願い」「これはあなたしかできない」って(笑)。NPOの代表なんて、人の力を借りなければ成り立ちません。