「親の老いは、子どもにとって貴重な教科書ですよ」(上野さん)

認知症になっても、そこで生きていける社会に

稲垣 今はコロナの問題で、ひとり暮らしだと外との接触がパタリと絶たれてしまう人も多そうです。

上野 そもそも人づきあいが苦手という人もいますよね。そういう密な人間関係がない人でも、誰でもお世話してもらえるのが、介護保険制度というわけです。ただ心配なのが、この制度がここにきて後退しようとしていること。どうなるかというと、要介護度の軽度をはずして、重度3・4・5の3段階くらいに絞る。

サービスが切り下げられ、利用者負担が増える……。このことを話し出すとキリがないので今回はやめておきますが、樋口恵子さんと一緒に編集した『介護保険が危ない!』(岩波ブックレット)という本で、詳しく説明しています。

稲垣 不安はありますが、上野さんのお話で、認知症の人たちがひとりで暮らせるようにと、在宅独居を支える動きがたくさんあることも知り、励まされました。

上野 私はこれまで、認知症になるのは防げない。それを予期して「認知症になっても安心できる社会を」と言ってきました。ですが、私がカルテをつくっていただいた認知症専門医は、もうひとつ先を言っています。「認知症に備える社会を」と。認知症になることが前提で、そこで生きていける社会をと……。

稲垣 そうして、上野さんがおっしゃっているように、認知症になっても機嫌よく生きることができればいい。私の母はそれがなかなか難しかったんですけど。

上野 親の老いは、子どもにとって貴重な教科書ですよ。

稲垣 はい、頑張り屋の母が頑張った末の最期を見て、その素晴らしいところも、逆に危ういところも、たくさん学びました。

上野 おひとりさま同士、この話の続きは今度フランス料理でもご一緒しながら、いかがでしょう。あ、おなか壊しちゃうかな。(笑)

稲垣 いえいえ。(笑)