福来屋日本橋本店の屋上は、ところどころにウッドデッキが敷かれた広々とした公園になっていた。冬なので芝生はまばらだが、あちこちの植え込みで薔薇やパンジーが可憐な花を咲かせている。爽やかな冬晴れと日本橋のビル群を一望できる、都会らしからぬ落ち着いた空間が広がっていた。
さすがに真冬の屋上庭園に来る客は少ないのか、舞子の他は二人ほどぶらついているだけだった。彼らも物珍しげに景色を見回し、寒そうに肩をすくめてすぐに館内に戻っていく。
舞子はウッドデッキの端に設けられたベンチに座った。上を向くと、澄んだ水色の空が迫ってきて気持ちがいい。深呼吸をして、目を閉じる。日射しを透かした瞼の裏に、鮮やかなオレンジ色が広がる。
深呼吸をするのは久しぶりだ。自分の心臓の音が聞こえそうな静けさに身を置くのも、久しぶり。四方八方へ無理に手足を伸ばし、ねじれながら硬直していた心身が、じわじわとゆるんで元の形へ戻っていく気がする。――元、っていつの自分だろう。子供の頃だろうか。それとも結婚する以前? 仕事を始める以前? いや、学生の頃は学生の頃で、不自由だった。
もしも今、背負わなければいけない役割がなにもなかったら、自分はなにを感じ、どんなことをしたいと思うだろう。
舞子はしばらく目を閉じていた。風の音がする。どこかで工事をしている音がする。時折電車の走行音が、かたんかたんと空を刻む。
