正面玄関横に設置された「雀の巣」のモニュメントが多くの来店客から愛されている、福来屋日本橋本店。親しみやすいデパートで、食品から衣服、日用品、貴金属など様々なものを扱っている。この福来屋に今日もまた、何かを買い求めるお客さんが足を運び――。

デパートを舞台にした、彩瀬まるさんのWEB連載小説、お楽しみください。

 あれはいつのことだっただろう? そのとき、英子はとても衝撃を受けた様子で目を見開いていた。
 自分の手元には――赤ん坊がいた。腕にずしりと重さを伝える、熱い、湿った、柔らかい体。ということは、六年ほど前だ。まだ櫂人が赤ん坊だった頃のある日。英子はなんて言っていただろう。慎重に記憶を辿る。
『母親が働いている家の子供は躾がなっていなくて乱暴だなんて、そんな古い中傷が、今でもあるの? 本当に?』
 驚愕をあらわにする英子の顔を、当時の自分は意外な心地で見返していた。
 意外に感じたということは、英子から違う発言が返ってくるだろうと予測していたことになる。自分はなにを英子に話したのだったか。