雀がシンボルになっている福来屋(ふくらや)は、百貨店の中でも高級感より親しみやすさを打ち出す傾向がある。クリスマスディスプレイによく知られた絵本の白猫を採用したのも、そうした意図があるのだろう。
「この辺りだけ違う世界みたいになってますね」
きらびやかなディスプレイを見つめ、時生はぽつりと呟いた。
たしかに、百貨店という施設の効果なのか、それともディスプレイの出来がいいのか、オフィスビルや店舗ビルが並ぶ寒々しいグレーのビル街で、福来屋は建物全体から金色の高揚感とでもいうべき祝祭ムードを周囲に放射していた。
とはいえ、仕事の予定で作られた鋼鉄のレールを外れて以降、傑は自分がまるで一時間ごとに異なる世界に紛れ込んでいるような妙な気持ちになっていた。人々が直線で行き交う晴れた午後のオフィス街、枝人間たちが発生する薄暗いアトリエ、そして、輝きで満たされたクリスマス仕様の百貨店。世界は自分が思うよりもずっと奔放で、統一感がない。傑は福来屋日本橋店の正面玄関に置かれた雀の一家の銅像にちらりと目を向け、重厚な石造りの建物に入った。
エントランスホールには金銀のオーナメントやリボンで飾りつけられた大きなツリーが置かれ、その周囲はツリーの写真を撮ろうとする客で混雑していた。傑は時生を先導して足早に人混みを離れ、フロア端に位置するエレベーターホールへ向かった。寒天ゼリーみたいな正方形のホールボタンを押し、扉が開くのを待ってかご室へ乗り込む。
