「平野さん、今年はどうして人間を作品のモチーフにしたんですか? これまでの動物シリーズも、好評だったように思いますが」
問いかけに、時生は食後のほうじ茶を飲みながら、まばたきをして考え込んだ。
「えっと……割と前から、気になっていたことがあって」
「はい」
「工房でお客さん同士の会話を聞いていると、俺の作品を買ってくれる人たちは、作品がきれいだからとか、便利だからとか、そんなわかりやすい理由ではなく、もっと微妙な……作品を見ていて、なにかいいイメージが浮かんだ、みたいな、お客さん自身の解釈を購入のきっかけにしていることが多いんです。それはたぶん流木っていう素材の雄弁さや、俺の作風の淡白さとかが合わさった結果だと思うんですけど……」
はあ、と傑は相づちを打った。別に珍しい話だとは思わない。アート作品なんて多かれ少なかれ、アーティスト側の意図とは別に、客側が好みの解釈をして買っていくものだろう。時生も傑と目を合わせ、一つ頷く。
「それで、何度も俺の作品を買ってくれている方や、作品のメンテナンスで呼んでくれた方に、作品をどう思い、どんな風に使っているのか、折に触れて聞かせてもらうようにしたんです。アクセサリースタンドを買ったある方は、ネックレスをひっかける枝のカーブがまるで親しい人から差し出された指のように見えた、遠くに住んでいる姉を思い出しながら使っている、と教えてくれました。割と大きめの、湾曲した作品を買ってくれたある方は、子供の頃に実家の天井裏に蛇が棲んでいて、家の守り神だと教えられてきたから、自分が店を開く際にもお守りになるような蛇っぽい置き物が欲しかったと、作品を店舗の天井裏にお酒を供えて飾っていました。俺はその作品を、三ヵ所くらい小さなランプが置けるお洒落(しゃれ)なライトスタンドとして売っていたんです」
「ははは」
「大川さんもそんな感じでしたよね。ランプシェードを『猫の丸み』って言ってくれて」
「いや、お恥ずかしい。忘れてください」
