「お客さんたちは俺が想像するよりずっと自由に、それぞれの個人的な満足のために作品を使ってくれていました。自分の人生が、誰かの人生と噛み合っている感じがして、すごく気持ちがよかった。お客さんたちと会っているうちに、人間をモチーフにする面白さがだんだんわかってきたんです」
「だからさっき、満足とかそういうことを聞いていたんですね」
はい、と時生は浅く首を引いて頷いた。
「いま作りかけの一体は、都会に暮らす人のイメージで……たぶん普段は山の中に暮らしている俺と、ビル街に暮らしている人とじゃ、満足な在り方も違うだろうなって、考えながら作っています」
「東京で制作する期間を設けたいというのも、もしかしてそういう理由ですか」
「はい。制作の合間になるべく外を歩いて、都会で暮らす感覚を学べたらなと」
「よくわかりました」
つまるところ、行き詰まっている作品のテーマは、都会人の満足ということか。なんだろう。すぐに思い浮かぶのは休暇、金銭的充足、承認欲求の達成だけれど。傑は悩みながらゆっくりと首を回した。
「すぐにはアイディアは浮かびませんが……でも、いい場所にお連れできたのかもしれません。ここは百貨店です。季節柄、自分や他人へのプレゼントを探している人も多い。賑わっている売り場を見れば、きっと参考になると思います」
「助かります」
入り口で会計を済ませ、体から甘い牛肉の脂の香りを漂わせつつ店を出る。ごちそうさまでした、と会釈する時生に、傑はいえ、と首を振った。
