「エレベーターよりも、エスカレーターを使いましょうか。その方が、客の多い階がわかりそうです」
「はい」
 レストランが並ぶ八階にも、あちこちに小さなクリスマスツリーやリースが飾られている。エスカレーターのステップに乗ってまもなく、時生が口を開いた。
「そういえば、大川さんはクリスマスになにか購入されるんですか? 自分へのご褒美とか、どなたかへのプレゼントとか」
「いや、特には」
 個人としての予定はなく、なにか物品を買いたいという気持ちもあまり感じていない。仕事で使う衣服や小物はまだくたびれておらず、日用品も足りている。ご褒美というなら旅行にでも行きたい気がするが、年末年始は忘年会や新年会で予定が埋まりがちだ。きっと今年も難しいだろう。個人的にプレゼントを贈るような相手はおらず、これから作る予定もない。十二月二十五日は傑にとって、ごくありふれた出勤日だった。
「まとまった休みが取れれば温泉とか、そういうリラックスできそうな場所に行きたい気持ちもあるんですが」
「そうですか……あ、でも、猫がお好きなんですよね? 気分転換に猫カフェとかは」
「猫は……」
 するりと頬を撫でて去る、柔らかな尾の感触がよみがえる。
「どちらかというと、苦手なんです」
 

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