出張先の道の駅で、偶然にも時生が制作した少しいびつな半球形の流木作品に出会ったときのことを、傑は今でも鮮やかに覚えている。細長い木片を組み合わせ、どの角度から見ても柔らかなカーブを描くように作られたそのランプシェードは、耳も尻尾もないのにひとめで猫を連想させた。体を丸めて眠る、猫の体の曲線だ。
後日、時生の工房を訪ねた際に持参し、「このランプシェードのモチーフは猫ですか?」と聞いたところ、当時まだ二十代だった時生は不思議そうに目を丸くして「枝のカーブをより自然な形でつなげていったら、そうなりました。お客様の好きな風にとらえていただいてかまいません。お客様には、猫に見えたんですか?」と聞いた。傑は手にしたランプシェードを傾け、「この角度からみると、眠っているときの猫の丸みにそっくりです」と答えた。もう五年も前の話だ。
「ちなみに大川さんは『猫の丸み』をご自宅でどんな風に使われてますか」
「あいにくうちにはちょうど収まるサイズのライトがなかったので、壁に吊るして飾ってあります」
「ああ、そうなんですか」
時生は意外そうに目を見張った。
「あの作品は、完成したあとに使い道はランプシェードぐらいかなと思ったからそう商品札に書いただけで、買ってくれた大川さんが猫だって思ったなら、猫ですよ。ぜひ猫として扱ってください」
「猫として? あ……ああ、では、座布団でも下に敷いてみましょうか」
「いいと思います」
下手な冗談を発したつもりが大真面目に頷かれ、傑は苦笑しつつ手元に目を落とした。白っぽく乾燥した自分の手指が目に入る。時生は気負いのない声で続けた。
