同級生たちの間で、虫取りがとても流行(はや)っていた。
 ある日、友達に誘われて学校帰りに草むらでバッタをつかまえていた傑は、いつのまにか自分のトレーナーのすそにバッタの脚が一本ぶらさがっていることに気づいた。直前まで、平気でつかまえててのひらにのせていたのに、自分でも気づかぬうちにバッタの脚が体にひっかかり、気づかぬうちに千切っていたのだと思うと、その存在のもろさに言いようのない気味の悪さを感じた。
 表情を硬くした傑に気づきトレーナーから虫の脚をとってくれた友達は「先がフックみたいになってる! すごっ!」と無邪気に笑い、それを草むらに投げ捨てた。 
 小さな生き物は、ときどき思いがけないタイミングで姿を現す。そのときの心臓が跳ねる感じが、とても苦手だ。好き嫌いとはまったく別の意味合いで、黒豆ときなこに対して漠然と抱えていたすくむ感じが、浮き彫りになった瞬間だった。
 その年の暮れも、帰省で祖母の家に泊まった。久しぶりに会った黒豆ときなこは、まるで挨拶するかのように傑のジーンズに体を擦らせた。
 真夜中に浅い睡眠と短い覚醒を繰り返していると、枕元を温かい気配が通った。柔らかくしなやかな物体が、頬をするりとかすめる。
 ああ、猫だ。気にしなくていい……。
 傑はそう自分に言い聞かせ、寝返りを打って布団に顔を埋めた。うっすらと疲れを感じる長い時間が過ぎ、障子戸が明るく染まっていく。
 そろそろ起きてもいい時間だろう。傑は枕から頭を浮かせた。
 朝日が差した枕元には、黒っぽい鼠(ねずみ)の死体が置かれていた。