「この階は、割と空いてますね。あ、でも、書店と併設されたカフェは混んでいるか」
「福来屋日本橋店はカフェがあまり入っていないので、書店の利用客だけでなく、休憩目的で来ている人も多いと思います」
斜め後ろを歩く時生の雑談に応じながら、傑はゆるりと首を巡らせて陳列されたさまざまな商品を眺めた。
都会人の満足といえば、休暇、金銭的充足、承認欲求――なにかここ最近で、周囲の人々の心を捉えていた商品はなかっただろうか。
そして明日の朝までに、俺はリラックスをして、回復しなければならない。結局、どうすればリラックスしたことになるんだ。
広く明るい百貨店のフロアで、自分が一体なにを探しているのだったか、次第にわからなくなってきた。
いっそ、アロマディフューザーでも買ってしまおうか?
ちょうど目についた、ハーブやアロマセラピー関連の商品を扱う店の前で足が止まる。すると「アロマお好きなんですか?」と時生が興味深そうに聞いてきた。
「あー……いや、冷静に考えると、香りが強いものはあまり……平野さん、リラックスって言われたらなにを思い浮かべます?」
「リラックス? そういえばさっきも言ってましたね。俺は……スーパー銭湯かな?」
「あ、いいですね」
「地元にいい施設があるんです。サウナ、岩盤浴つきで千百円」
「今から山梨に移住したくなってきました」
「ははは。いや、わざわざ移住しなくても、大川さんは会社の社長さんなんだから、温泉地に別荘とか買っちゃえばいいんじゃないですか?」
「いや、社長はみんな別荘を買える金持ちかっていうと、そうでもないんですよ。それに私はなかなか会社を離れられないので、頑張って買っても活用できなそうです」
「じゃあ、手近でリラックスする方法を探している感じですか。瞑想とか、ヨガとか?」
「やっぱりそういう方向になるんですかね」
瞑想もヨガも、これまでの暮らしで接点がなかったせいか、それを行っている自分をイメージしづらい。傑はため息をついた。
