●希少がんの例図を拡大

 細分化されたのですね。今は国民の2人に1人ががんになるとされていますから、誰が希少がんになってもおかしくない。

下山 その通りです。にもかかわらず、個々の希少がんの症例数自体は非常に少ないため、そのがんに関する知識の共有や治療法の開発が十分に進んでいない。結果的に診断が難しく、確定までに時間がかかったり、担当医が適切な治療方針を選択できなかったりする。まさに、東さんがお困りになられたことですね。

 ほかにも夫の闘病中、私が困難を感じたのは、患者と医師の知識の格差です。書評家という仕事柄、闘病記を読むことも多く、医療の知識もそれなりにあるつもりでした。それでも、がんについて初歩的なことすら知らなくて。

面談では許可を得て録音していたので、家で聞き返し、わからない言葉は調べてまとめましたが、そうでもしなければとても理解できなかった。初めて先生にお会いしたときも、《がん》と《癌》の違いについて説明され、「え、違うものなの?」と驚きました。

下山 悪性腫瘍のことを一般的には「がん」とまとめて呼びますが、医学的にはどこの組織から生まれたかによって、「癌」「肉腫」「白血病」などと呼び名が変わります。さらに、がんは初めにできた臓器に対応した特徴を持つので、発生した場所、「原発部位」によって、治療が変わります。

 どういうことでしょう。

下山 たとえば胃にがんが見つかったからといって、胃癌とは限りません。もし、肝臓から生まれたがんが胃に転移したのであれば、「肝臓がん」の治療をしなければならないのです。

胃から生まれたがんであっても、胃の粘膜から生まれたら胃癌ですし、胃の筋肉由来であれば肉腫、リンパ組織から生まれたら胃のリンパ腫の治療が必要。

保雄さんの場合は、癌であることは判明していましたが、原発部位の見極めがつかないので、「原発不明がん」と呼ばれるわけです。原発不明がんの場合、まず癌なのか肉腫なのかなどを調べるところから始めなければなりません。