駅近くまで戻ってきたとき、頭上から聞こえてきた音楽は…(写真:stock.adobe.com)
時事問題から身のまわりのこと、『婦人公論』本誌記事への感想など、愛読者からのお手紙を紹介する「読者のひろば」。たくさんの記事が掲載される婦人公論のなかでも、人気の高いコーナーの一つです。今回ご紹介するのは宮城県の70代の方からのお便り。電車で買い物に出かけた帰り道、頭上から聞こえてきた音楽に、思わず口ずさんでしまったのは――。
懐かしのメロディー
時折、隣県の県庁所在地まで買い物に出かける。電車で往復30分ほどなので、何かと便利だ。食材の買い物だけなら、1時間もあれば十分で、夕刻までに帰宅できる。
今日は午前中のうちに電車に乗って出かけた。用事をすませ、駅近くまで戻ってきたとき、頭上から突然、音楽が聞こえてきた。
広場のモニュメントから、時報代わりにでも流しているのだろう。哀調を帯びた旋律がゆったりと続き、人の行き交う駅前広場の空気をなごませている。
私は無意識のうちに、流れてくる音楽に合わせて小さく口ずさんでいた。あっ、この曲は「君の名は」だ。私は歩道で足を止め、続くメロディーを歌い続ける。いったい、いつ憶えたのだろう……思い巡らすまでもなく、母がよく口ずさんでいたことを思い出した。
私がまだ幼かった頃、母は父に先立たれている。女手一つで姉と私を育てるのに、どれだけ苦労したか、子どもながら身に染みて知っていた。
母は不安でいっぱいの中、歌うことで気を紛らわしていたのかもしれない。つい口にした歌は、さびしさが滲み出たものだろう。それは、母が呼びかけているようでもあった。
そういえば、作曲者である古関裕而は、この街の出身だと聞いたことがある。この曲が流れることに不思議はない。
そんなことを考えながら、心がなごむのを感じて、駅の改札口を通り抜けた。