映画『八甲田山』を思い出し…

歩道にそって、高級車や中古車の販売店が建ち並び、外に並ぶ車は雪をかぶり、ガラス張りのオフィスは暗く、人影がない。

静まりかえった雪原を、街灯と雪明りを頼りに歩き始めた。その時、履いていたスノートレーニングシューズ(雪道用の靴)の左足の前の靴底が外れた。ずっと押し入れにしまってあったので経年劣化だ。

左足を上げるたびに靴の本体と靴底が離れて、口を開けて雪を食べるような感じになった。底が全部取れないことを祈りながら、静かに歩いた。

雪がさらに降ってきて、傘が重くなり、はたいていたら、体が冷えてきた。

私は1977年に公開されて大ヒットした映画『八甲田山』(森谷司郎監督、高倉健、北大路欣也など有名俳優が出演)を思い出した。

新田次郎の小説『八甲田山死の彷徨』が原作のこの映画は、明治時代に青森県に駐屯していた旧陸軍が雪中行軍の演習中に遭難するという内容だ。私は、映画の中で緒形拳が演じた伍長が、雪中での体の保温のために古新聞を活用したことを思い出した。

私は、愛用の大きなショルダーバッグの中から、自社の新聞を取り出し、着ているオーバーコートの中に入れ、胸に押し当てた。しかし、タブロイド判8ぺージの新聞では寒さをしのげないことを思い知った。

会社には購読している一流新聞があり、新聞回収の人が来るまで積み重ねてあった。朝刊をくすねてくれば、ページ数も多く、紙も大きく、寒さをしのげたのだ。一流新聞との差を感じて、悲しくなった。

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