『ピアノ調律師』(ゴフスタイン作 末盛千枝子訳 2005 すえもりブックス)(写真提供:『今だからわかること 84歳になって』/KADOKAWA)

アメリカにシャーロット・ゾロトウという、自分でも本を書いている名編集者がいました。緑色の目をした美しい魔女のような女性で、憧れの存在でした。

不思議な縁で、数年間、私が手がけた新刊を、彼女に英語で語り聞かせる機会があったのです。その度に、「今年は何を見せてくれるの?」と言ってもらえたのは、とても幸せなことでした。

このゾロトウを育てた伝説の編集者が、ノードストロムです。『かいじゅうたちのいるところ』のモーリス・センダックなど、名作を世に出しました。

その彼女は、ある舞踏家の言葉を記した紙を財布に入れて持ち歩き、くしゃくしゃになったそれを作家たちに読んで聞かせたそうです。その一節。

「あなたという人は一人しかいないので、この表現はあなた独自のものです。このエネルギーは他の媒体を通しては存在できないので、あなたがこれを表現しないと失われてしまいます。自分の表現しているものがよいものか、価値あるものか、人の表現と比べてどうなのかと、自分で判断しないことです。自分の持っているものをはっきり、そしてしっかりとらえていればそれでいいのです。」

『伝説の編集者 ノードストロムの手紙 アメリカ児童書の舞台裏』(レナード・S・マーカス編  児島なおみ訳/偕成社)

なんと深い言葉でしょう。年齢や仕事に関係なく、すべての人に向けられる励ましです。

では、私なら、若い編集者に何を伝えましょう?

どういうものを美しいと思うのか、そのアンテナを広げておくこと。

それは年も仕事も関係ありません。生きていくためには必要なことだと思っています。

 

今だからわかること 84歳になって』(著:末盛千枝子/KADOKAWA)