「こわいおばあちゃん」も素敵

斎藤史さまにおいて、そのドラマティックで逃げようのないバックグラウンドは紛れもなく歌を読む上で魅力になっているでしょう。しかしわたくしめは先ほどの「そりやぁあなた」のような、老いや人生の疲労を受け入れる中で逆に個人のドラマを生きている晩年の歌に惹かれます。

携帯電話持たず終らむ死んでからまで便利に呼び出されてたまるか

九十歳の先は幾歳(いくつ)でもいいやうなお天気の中花が咲くなり

どれも軽さを保ちながらも、その奥では泥水をすすって来たと感じさせる歌ばかり。

一首目、明治生まれの作者は「携帯電話」をどう見ていたのでしょう。便利さを感じる反面、一日のスピード化、すぐ繋がってすぐ会うことになる煩わしさも感じていたのでしょう。「死んでからまで便利に呼び出されてたまるか」はなかなか気の利いたフレーズです。社会に迎合して携帯電話を持つような人たちは、死後も都合よく思い出されたり記憶に美化されたりしていそうです。ガツンと硬いお煎餅のような歌であり、老いの中の鋭さを感じさせます。

かわいいおばあちゃんになりたい、という言説がありますが、こわいおばあちゃんもなかなかよろしいもの。年取って愛玩されるより、恐れられるくらいのリスペクトを受けてこそとも言えそうです。

二首目は穏やかな歌ですが、これもどこかぴりりと辛さが効いているように感じます。

「九十歳の先は幾歳でも」というあっけらかんとしたフレーズに「お天気の中花が咲くなり」といいます。この「お天気の中花が咲くなり」は、もっと美的にできるフレーズ。「花が咲くなり」なんて、あまりにぶっきらぼうです。でもだからこそ、この作者は、お天気の中花が咲くことを、一〇〇%目を細めて見ていないこともまた伝わります。世の中こんなもんね、ふふん、とでも言いたそうなお歌です。

 さ、お嬢様もうここはメイクも落とさずに寝てしまいましょう。お風呂も明日シャワーを浴びればいいではありませんか。今日は自堕落に、疲れを引きずって……え? メイクも落とすし風呂も入るしストレッチもする? むむ、このたくましさ、長生きの秘訣……。

今回ご紹介した歌人

斎藤史(さいとう・ふみ)
1909年東京生まれ。二・二六事件に連座した陸軍将校で歌人・瀏の長女。
77年に『ひたくれなゐ』で迢空賞、86年に『渉りかゆかむ』で読売文学賞、
94年『秋天瑠璃』で詩歌文学館賞、斎藤茂吉短歌文学賞、97年『増補版 
齋藤史全歌集 1928~1993』で現代短歌大賞、紫式部文学賞を受賞。
女性歌人として初めて日本芸術院会員に選ばれた。2002年逝去。

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