仕事、家事、恋、子育てと、日常を駆け抜けていらっしゃるお嬢様方、おかえりなさいませ。今夜も、執事がとっておきの短歌をご用意いたしました。お疲れの心にひとさじの癒やしになりますよう、どうかごゆっくりお召し上がりください。さて、本日はどんなお嬢様からのお呼びでございましょう……

つもった疲労を明るく笑い飛ばす歌人

疲労つもりて引出ししヘルペスなりといふ八十年生きれば そりやぁあなた 斎藤史

お嬢様、夜分随分お疲れでございますな。日々の子育て、お仕事、それらのパートナー様とのスケジュール調整……うむうむ、それでは女性に大切なキラキラが失われてしまうことでしょう。では、ここで夜のアフタヌーンティーのお振る舞いを……え? いらない? 胃にもたれるから? 

いえいえ、ここは大丈夫でございます。女子たるもの、甘いものを食べれば力満載! え? 冗談じゃなく本当に胃がもたれる? それは大変なストレスでございますな。

いえいえ、わたくしめはお嬢様に力を出してもらいたかっただけ。む? その力を出すための力が出てこない? ガチのお疲れでございますな。

もうここは、しっかり休養していただくしかないでしょう。さあ、ベッドとブランケットとお嬢様専用の抱き枕を。大きく息をついてください。お疲れ、しっかり回復いたしましょう。ちょっと肩に触っていいですかな? 

うお! バキバキ! バキバキのバキバキ! 鉄板など仕込んでいるのでは? そのくらいの凝り方でいらっしゃいますよ! ぜひまずハーブティーでも飲んでいただいて、整体にも行っていただいて、ヨガのルーティン、野菜中心の生活を! 

え? どうでもいい? この疲れも含めて私なのだと。おお、これは一つの悟りの境地。では、そんなお嬢様が共感できるお歌のお振る舞いでございます。

作者は斎藤史さま、明治42年生まれ、近代を代表する歌人でございます。八十年生きて、「疲労つもりて引出ししヘルペス」があらわれたという。しかしそれを悲しむでもなく、惨めに思うのでもなく「八十年生きれば そりやぁあなた」という、諦念とユーモアではユーモア勝ちのような結句が特徴的です。ヘルペスは皮膚の病気。口周りや下半身などに水ぶくれができるウイルス感染症です。帯状疱疹にも似た身体の発疹とも言えるでしょう、痛く、見栄えも良くないもの。しかしこの作者はそれすら「そりやぁあなた」とどこかで笑い飛ばしています。「これだけ生きてたら、そりゃいろいろあるわよお」という、諦めつつも明るい声が聞こえて来ます。