非現実的な夢に引きずられる
キャリア教育では、しきりに「好きなこと探し」をやらせている。好きなことと言われてもすぐに思いつかないことが多いため、「自分が好きなことは何か」を自己分析させたりする。
さらには「好きなことを仕事にしよう」などと言って、「好きなこと探し」を職業選択に結びつけてみるように促す。
自分はどんなことが好きなんだろうと考えてみるのはよいが、そこで思い浮かべた好きなことを仕事につなげることが、はたしてできるのだろうか。
たとえば、演劇が好きだから俳優か舞台監督になる、落語が好きだから落語家になる、野球が好きだからプロ野球選手か球団運営者になる、音楽が好きだから歌手か楽器演奏者か作曲家になる、などと考えるのは簡単だ。しかし、現実に就職先を決める際には、そんなふうに短絡的に考えるだけではすまない。
そうした好きなことは、趣味として十分楽しめるはずである。趣味を大事にして生きるためにも収入を確保する必要がある。収入がなければ、趣味を楽しむ余裕もできない。好きなことを楽しむために、とくに好きというわけでもないけれども自分にできそうな仕事に就く。そのように考えるほうが現実的であり、実際うまくいくのではないだろうか。
「好きなことを仕事にしよう」といったメッセージに踊らされると、非現実的な夢に引きずられて、結局就職がスムーズにできず、きつい思いをすることにもなりがちだ。
また、「好きなことを仕事にしよう」というメッセージにとらわれることで、「好きなことしかしたくない」「楽しいことしかしたくない」という心がつくられるということもある。
そのせいで「仕事が楽しくない」といってすぐに辞めてしまう若者が増えている。だが、そうやって組織を飛び出しても、楽しくてしようがないような仕事がそこらに溢れているわけではないため、結局路頭に迷うことになりかねない。
冒頭に示した、そういうことには興味がないからといって与えられた仕事を拒否するような事例も、そうしたキャリア教育のメッセージが心に刻まれたために生じたものといえるだろう。