義父の甘え

私って意地悪だなとも思う。同時に、はっきり言って冗談じゃないとも思う。

何が私をそこまで苛立たせているかというと、義父の甘えである。2022年の年末、義理の両親は新型コロナウイルスに感染し、義母は軽症で済んだものの、義父は高熱を出して意識が朦朧とした。ケアマネさんに訪問看護師を派遣してもらい、発熱外来に運び込んだ。その時の義父の行動が、ずっとずっと私の心に引っかかっている。そして消えない。

『義父母の介護』(著:村井理子/新潮社)

高熱が出て、息も絶え絶えになった義父を見た看護師さんは、救急車を手配しようとした。しかし、当時はとにかく患者数が多く、救急車を手配してもらうことはできなかった。仕方がないので、私と訪問看護師さんで、意識が朦朧としていた義父を担いで、私の車の後部座席に運び込んだ。義父は一切体に力が入らない状態で、両足を引きずってようやく車に運び入れたのだ。しかし義父は、私たちがゼエハアいいながら彼を車に運び込んだあと、義母の身支度を整えるあいだに、自分で車を降りてスタスタと軽快に歩いていたのである。

夫は「運び込まれたときは本当に具合が悪かったんだろ。許してやってくれ」と言う。「あんたにボロカス言われる親父が可哀想になるなあ」とも言う。でも、一番可哀想なのは私と看護師さんではないだろうか。私も看護師さんも、万が一感染しても仕方がないという悲壮な思いで、脱力して意識不明らしき老人を担いで車まで必死になって運んだのだ。

それなのに、一瞬目を離した隙に、軽やかな足取りで車を降りて自宅に戻り、トイレに向かっていた義父。その後ろ姿は元気そのもので、つい1分ぐらい前に息も絶え絶えの白目状態で全身の力を抜き、だらんとした両足を引きずられるようにして車に乗せられた老人と同一人物とは思えなかった。看護師さんはきゃーっ! と叫んだ後に「歩けてるやん!」と大声で言っていたが、私は内心、「またやられた……」と思っていた。