迷惑な不死鳥
ここ数年ですっかり涙脆くなった義父は、義母との暮らしの苦労を語るとき、人目も憚らず泣くようになっていた。相手が誰であろうと、あっさり泣いてしまう。そりゃあ、お年寄りですもの、大変ですもの、泣くときもありますよ……と思う方もいるだろう。それは私も理解しているつもりだ。
義父が泣くことが問題ではないのだ。問題は、泣いた直後に(それも3秒後ぐらいに)、なにごともなかったかのように普通の状態に戻っているところなのだ。普通というか、むしろ明るい。「つらいですねえ」「大変ですねえ」と優しく声をかけてもらうなど周囲にいる人間の注目を十二分に集めたことを確認すると、義父はすっかり元気になる。両目はキラキラ輝く。完全復活を遂げ、上機嫌になる。迷惑な不死鳥だ……私の目にはそう見えた。それとも私が意地悪過ぎるだろうか。
こういう経緯もあって、私はここのところずっと疑っていたのだ。涙声の電話で「もうどうしていいかわからんのや……たすけて……」とダイイングメッセージのようなことを言われても「OKでーす!」と上手にかわしていた。だって、本当は元気なんだもの。以前は、驚いて車をぶっ飛ばして夫の実家に駆けつけたものだったが、私の心配をよそに、義父は決まって上機嫌に庭を掃除していた。満面の笑みだ。拍子抜けというか、腹立たしい。こんなゲームをするために私を呼びつけてくれるなという怒りが募ったものだった。
こんなことが何回か続き、私はようやく理解した。義父は距離の近いケアを必要とする人物なのだと。義父には「大変ですね」「つらいですね」と優しく言ってくれる誰かが必要で、彼は求めればそれを与えてもらえるとまで考えている。というか、それは何かのプレイですか?
……ここで、はっと気づいた。いままで、その面倒くさい義父の気質を受け入れてくれていた義母が認知症となり、湿度の高いケアを与えられなくなったために、義父はその面倒くさい高温多湿な気質の後始末を、ケアマネさん、ヘルパーさん、訪問看護師さん、そしてあろうことか、私にまで求めているのではないか!? キャーーーッ!