「……私が言ったら失礼かもしれませんが……霧さんによくしてくれてありがとうございました」
深く頭を下げた。
「いや、そんな。当たり前のことをしただけです」
「霧さんは剣人君たちに看取られて幸せだったと思います」
「……いえ、違いますよ、木綿子さん」
ふいに剣人が真顔になった。
「違いますよ、木綿子さん。霧さんは……ずっとずっと……前よりもずっと寂しそうでした」
剣人が声を詰まらせた。しばらくためらって、それから怒りに満ちた声を絞った。
「霧さんは不幸だったんです。俺たちでは霧さんを幸せに送ることができなかったんです。俺はそれが悔しくて……」
「剣人君、やめて。あなたが自分を責めることを霧さんが望むはずがない。わかってるはず」
「でも、俺は……」
「ねえ、剣人君。霧さんは笑ってたでしょう?」
「……笑ってました」
「それが霧さんの望み。あなたたちの前では笑っていたかったのよ。だから、それを無駄にしないで」
剣人の返事はなかった。ただ、自分の膝を握りしめ、肩を震わせている。その拳を見てはっとした。
「ねえ、剣人君。霧さんの手に似てきたような気がする」
剣人が怪訝(けげん)そうに顔を上げた。眼は涙で一杯だった。
「さすが五代目。霧さんもきっと喜んでる」
剣人はしばらく自分の手をじっと見ていたが、やがて大きく息を吐いた。
「すみません。とにかく俺なりに、やることをやっていきます」
私は微笑んだ。霧のように微笑んだつもりだったが、うまくいったかどうか。
「剣人君は仕事があるでしょ? 私、もうすこしここにいていいですか」
「ええ、もちろん。ゆっくりしていってください」
