「麻子、入るよ」
慌てて部屋に入ると、床の上で麻子は声を殺して泣きじゃくっていた。あたりには本やペットボトル、分厚いファイルなどが散らばっている。
「どうしたの、麻子」
麻子は首を横に振り、なにも言わずただしゃくり上げる。
「大丈夫。心配ないから。お母さんがいるから」
背中をさすりながら三十歳の娘をなだめる。
子供の頃から手の掛からない子だった。いつも私を助けてくれた。怒ったことも注意したこともない。本当にいい子だった。だから、今になってこんなに苦しんでいる。みんな私のせいだ。
「……ごめんなさい、お母さん、ごめんなさい」
「謝らなくていいの」
私は娘の背中をさすり続けた。
「……先週は外へ出られたのに。でも、今日はなにもできなくて……」
先週の日曜、麻子はとても調子がよくて近所のスーパーまで一緒に買物に行くことができた。元気になってきたのか、と本当に嬉しかったのだ。今週になるとまた逆戻りだ。食事も一人でないと食べられないし、みなが寝静まった頃にシャワーを浴びるのが精一杯の様子だ。
「ごめんなさい。お手伝いしようと思うのに、お母さんを助けないといけないのに……」
「そんなこと考えなくていい。謝らないといけないのはお母さんのほう」
麻子はもう堪えきれなくなったように声を上げて泣き出した。
「ちゃんと就職しなきゃいけないと思って……せめて資格取る勉強でもしなきゃいけないと思って……」
「いいの、麻子。あなたは子供の頃からずっとお母さんを手伝ってくれた。働いてたのと同じ。だから、今は休んでいい。ゆっくりしてていいの」
娘に甘えた結果がこれだ。後悔しても後悔しきれない。
「でも、私は……」
麻子がなにか言いかけたとき、階下から父の怒鳴り声が聞こえた。
「木綿子、木綿子。早く来い。なにをしてるんだ。ぐずぐずするな……」
麻子が耳を塞いで床に突っ伏した。身体がぶるぶる震えている。慌てて私は抱きしめた。娘の身体はガチガチに硬くなっていた。
